厨房図面から始まる「理想と現実」のすり合わせ —— メニュー実現のための調整術
カフェや飲食店の開業準備が進み、厨房の図面プランが出来上がると、オーナーにとって一つの大きな節目を迎えます。
図面が完成すれば、厨房機器の配置やスタッフの動線、水道やガスなどの設備の詳細が可視化され、いよいよ現実的な運営のイメージが湧いてくる段階に入ります。
しかし、ここで忘れてはならないのが、「図面通りに進めればすべてがうまくいく」というわけではないということです。
むしろ、この段階からが本当の意味での「理想と現実の調整フェーズ」だと言えるでしょう。
【厨房図面とメニューは密接に結びついている】
カフェにおける厨房は、単なる調理の場所ではありません。
それは、提供するメニューを形にするための「生産工場」であり、オペレーションのスムーズさを左右する「心臓部」です。
もし厨房の図面設計がメニュー内容と噛み合っていなければ、どれだけ魅力的なレシピを用意しても、現実には実現できない状況が生まれます。
たとえば——
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ピーク時に同時進行で複数の調理を行う想定なのに、火口(コンロ)の数が足りない
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冷蔵庫や冷凍庫の容量が不足していて、仕込みやストックが現実的に不可能
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動線が複雑で、料理を仕上げるたびにスタッフ同士がぶつかって効率が落ちる
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洗い場が狭く、ピーク時に皿が回らず提供が遅延
これらはすべて「図面とメニューの不一致」が招く典型的なトラブルです。
【調整は「図面を変える」か「メニューを変える」か】
厨房図面が完成した段階で必ず発生するのが、理想と現実のギャップです。
オーナーが思い描く「理想のメニュー」を実現するために厨房を調整するのか、あるいは厨房の制約に合わせてメニューを調整するのか。
実際の現場では、この二択の間を行き来しながら、最適な着地点を探っていく必要があります。
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図面を調整するケース
理想のメニューを実現するために、追加の機器を導入したり、配置を変えたりする。費用やスペースが許せば有効な手段。 -
メニューを調整するケース
厨房の規模や設備に無理がある場合は、調理工程をシンプルにする、同時調理が必要ないように設計するなど、提供メニューを再構築する。
どちらを優先するかは状況によって異なりますが、最終的に必要なのは「理想を貫くだけではなく、現実的に回る仕組みをつくる」という視点です。
【厨房プランニングでよくある失敗例】
実際に開業を推進していく中で、多く見られる失敗パターンを挙げてみます。
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オーナーの希望を詰め込みすぎる
「これもやりたい、あれもやりたい」とメニューを広げすぎた結果、厨房が狭すぎて回らなくなる。 -
オペレーションを軽視した配置
動線が複雑になり、ピーク時にスタッフ同士がすれ違えない。効率が悪化して、提供時間が大幅に遅れる。 -
仕込みスペース不足
仕込みに時間がかかるメニューを採用したのに、下処理の場所や保存スペースがなく、営業中に仕込みを強いられてしまう。 -
洗い場の軽視
提供メニューに対して皿数が多いのに、洗い場の容量や人員が足りず、皿が回らない状態に。
【理想と現実の「着地点」を見つける思考法】
では、具体的にどうすれば理想と現実を調和させられるのでしょうか。
ポイントは次の3つです。
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ピーク時のオペレーションをシミュレーションする
スタッフが何人で、どのような動きをするのかを図面上でシミュレーションし、実際の流れを可視化する。 -
利益構造から逆算する
売りたいメニューが利益を生むのか、提供スピードと回転率を担保できるのかを判断材料にする。 -
改善余地を残す
開業時に完璧を目指すのではなく、「まずこの形でスタートし、改善していく」という柔軟な発想を持つ。
【「絵に描いた餅」にしないために 】
どれだけ理想的なメニューを設計しても、厨房で実現できなければそれは「絵に描いた餅」です。
カフェ経営において最も大切なのは、現場で回るかどうか。
厨房図面が完成した段階こそが、オーナーにとって冷静な判断が求められるタイミングです。
理想を現実に落とし込むために、図面とメニューの両面から調整を重ね、着地点を見つけることこそが、開業を成功へ導く第一歩なのです。
【まとめ】
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厨房図面は、単なる配置図ではなく、メニュー実現の可否を決める設計図。
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理想のメニューと現実の厨房設備の間には必ずギャップが生まれる。
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図面を調整するか、メニューを調整するかを判断し、最適なバランスを探ることが重要。
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ピーク時のオペレーションをシミュレーションし、利益構造とリンクさせて考えることで「絵に描いた餅」を回避できる。
カフェ開業は夢を形にする作業ですが、同時に「現場で回る仕組み」をつくる現実的な作業でもあります。理想と現実を調和させ、初めて本当の意味での成功が手に入るのです。
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【執筆者】
CREATIVEDEVELOPMENT株式会社
代表取締役
伊藤栄一
飲食店メニュープロデューサー、カフェメニュー開発・開業支援
『メニューの開発実績500種類以上』『専門学校で講師の実績』カフェの現場で5年間シェフを歴任し、様々なメニュー開発を行う。開発メニューの中には、テレビや雑誌に取り上げられた事例も。